サンポーニャ(Zampoña)は、世界各地に存在するパンフルート(Pan Flute)の一種で、フォルクローレの演奏に用いられるアンデス地方発祥の葦笛です。
アイマラ語で
シーク(Siku、Sicu)と呼ばれ、また、サンポーニャによる合奏のことを“
シクリアーダ(Sikuriada、Sicuriada)”といいます。
なお、横一列に配されたサンポーニャのことをとくに“
アンタラ(Antara)”といいますが、これはケチュア語でサンポーニャ全般を指す言葉でもあります。
2010年の誕生日にArcoメンバーからプレゼンとしてもらったサンポーニャ。11管+10管+9管の構成で、基本的なマルタに比べ低音高音ともに4管も多く付属され、しかも半音まで配された優れモノ!プラスティック製なので管理にも気をつかわずにすみます。杉山楽器さんにてボリビアから取り寄せの品、とても気に入っています。長さの異なる管を音階順に束ねて作られます。管はそれぞれ底の部分の節によって閉じられており、息を吹き込むことにより音が出ます。管が長いほど低い音となります。
管に使われる素材は、アンデスで採取される葦や竹で、厚みの薄いものから順にソンゴ、キメ、ベルメホ、バンブーなど数種あるようです。
自然素材で作られたサンポーニャは味わいのあるやさしい音で鳴ります。また唇当たりもなめらかです。管が肉薄なほどキレのある音が出ますが、割れが入りやすい欠点があります。また虫がつきやすく(いわゆるサンポ虫と呼ばれるキクイムシの仲間。ただし毎日吹いていればそういった虫もつかないという話も聞きます)、気温や湿度にも影響を受けやすいです。
一方、やわらかめのプラスティックを使用したサンポーニャも作られ、こちらは自然素材製の弱点はすっかりクリアしています。見た目がいかにも人工的ですが、徐々に本物の葦などの色合いに近づいたものも出てきているようです。
(自然素材のほうは明らかに欠点も多いのですが、息を吹き込むことで経年変化が起き、音質もより良いものに育っていくため、割れたりしても補修しつつ長年同じ楽器を愛用し続ける奏者も少なくないようです。)
こちらは手作りキットで作った6管+7管構成のシンプルなマルタ管。天然素材の葦(ソンゴ)を使っています。
ところで管を束ねるひもの編み方もいろいろあるようで、ダイヤ型やX型、亀甲型とありますが、吹く人の側はだいたい四角編みになってます。
写真のものは やや?武田菱?!シサイのアントニオに教えてもらいました。エクアドル式でしょうか。サンポーニャの特徴として、音階を順に横に並べるほかのパンフルート類と異なり、ドミソ・・、レファラ・・と3度ずつずらして(つまり1音ずつ飛ばして)横一列に配された束を、前後に重ねた構造をしています。
これはもともと、サンポーニャは二人一組で演奏する楽器であり、二手に分かれて一方がドミソの束、もう一方がレファラの束を持ち、1つのメロディを交互に掛け合って吹奏していたことに由来するようで、こういった奏法を“
コンテスタード(Contestado=応えるの意)”といいます。
しかし20世紀の半ばころから、一人で両方の束を重ねて演奏するスタイルが確立され広まっていったらしく(この奏法のことを指してドブレ(Doble=ダブルのこと)と呼ぶようです)、これが現在の二段重ねのサンポーニャの起こりと思われます。
管の配列は、以前は、吹く人から見て左が最低音で右にいくほど高音となるタイプと、その逆の右側に最低音があるタイプが混在していたそうですが、ボリビアでは近年、右側に最低音のあるタイプに統一されたようです。
(理由はよくわかりませんが、たとえばボンボを叩きながらとか、片手でサンポーニャを吹く際に右利きの人が保持しやすいため、などではないでしょうか。逆でも持てないことはありませんが…。)一方、エクアドルでは、左に最低音があるタイプが主流とのこと。
なお、手持ちのサンポーニャの配列が左右どうもしっくりいかないという場合は、前後の束を分離させて、逆の配列に換えることも可能ですので(その場合、装飾の施された側が手前にきてしまいますが)、演奏のしやすさや求める音楽の地域性などお好みで選ばれてよいと思います。

サンポーニャは、カバーする音域によって呼び名が異なる楽器です。
高音域のものから順に、
チュリ(Chuli)、
マルタ(Malta)、
サンカ(Sanka)、
トヨ(Toyo)となり、各楽器の間ではそれぞれ1オクターブの音域の差異があります。
もっとも一般的なサンポーニャはマルタで、ケーナ、ケナーチョの1オクターブ目の音域にほぼ重なります(D4-B5)。
また、サンカとトヨの間には
セミトヨ(Semi-Toyo)があり、さらにトヨの1オクターブ下の最低音域の
レコントラトヨ(Recontra-Toyo)も存在します。
管の数は、基本的に上段7(レ、ファ♯、ラ、ド、ミ、ソ、シ)、下段6(ミ、ソ、シ、レ、ファ♯、ラ)、最低音レ~最高音シまでの13本構成ですが、15本構成や、それより数の多いものが主流になってきているようです。
また、2段式の上にさらに半音の管の列を重ねた3段式のサンポーニャのことを“
クロマティック・サンポーニャ(Chromatic)”といいます。こちらはフォルクローレで一般的なEm/G調やAm/C調のみならず、さまざまな調の楽曲に対応できる万能型ですが、3段目の半音がやや離れた位置にあるため、演奏は少々困難になります(半音を伴わない楽曲では問題ありません)。
(最近では、管の配列が横一列に近いタイプの“2列式クロマティック・サンポーニャ”も出てきており、これは音階を上下交互になぞることに慣れていない一般の音楽経験者にも扱いやすい、セミ・パンフルートとでも呼べるような仕様となっています。)
手持ちのマルタ・クロマティカに、なんでかたまたま家に転がっていたバラのキメ材3管を添えると、なんとサンカの音域からチュリの半ばまでカバーする多音域スーパーサンポーニャに変身!かなりの重宝もの。音色については、ケーナに比べやわらかな、暖かみのある音が出ます。
しかしながら、1列に並んだほかのパンフルートがとても澄んだ晴れやかな音を奏でるのに対し、サンポーニャはやや重く少しこもったような音質です。これは2段に重ねた奥の管に音が干渉されて起こることのようです。サンポーニャの特徴であり個性ともいえます。
音を出す際、ケーナが高音になるほど難しいのに対し、サンポーニャは低音になるほど難しい楽器です。正しい口の形、管にあてる位置、角度が求められ、管が長いほどやはり肺活量も必要になります。高音も、正しい吹き方をしていないと音程が激しく下がってしまいます。
チューニング(音程の微調整)には、あずき豆や米粒などを用います。
ピッチの低い管にあずきなどの粒を入れていくと、音程が少しずつ上昇していきます。
ところでこのようにサンポーニャは、音程を上げることはできるけれども下げることはできない楽器です。なので作る行程でやや低めに音を設定しているケースもあるそうです。
また、冬場はピッチが下がり、夏場は上がります。
アルコイリス所有のプラスティック製セミトヨ。最低音はソ。
サンポーニャを吹く人の指向はより低く低くへと向くようで…やっぱりもうちょい低い音も吹いてみたい!地の底から響くようなあのバリバリといった恐ろしいくらいの重低音。トヨほしいなあ~。サンポーニャは、フォルクローレを構成するビエント(Viento=管楽器)の双璧の一方を成す楽器です。
ケーナがメロディアスでなめらかな楽曲を得意とするのに対し、
ティンク(Tinku)や
トバス(Tobas)といった迫力ある歯切れのいい曲を演奏する際は、断然サンポーニャが似合います。
もともとフォルクローレでは脇役的な楽器だったそうですが、もちろん主旋律も奏でられますし、ケーナと重ねたり、高速吹きやコンテスタードで魅せたり、低音域のサンポーニャでベースラインを奏でたりと、ケーナとタイプは異なりますが、劣らず多彩な表現力をもつ奥深い楽器です。
またサンポーニャは、ケーナと違って誰にでも音の出せる笛であり、子どもからお年寄りまで、体力のある人はもちろん握力のほとんどない人でも奏でることができる、バリアフリーな、可能性に満ちた楽器です。
とりわけ“誰でもの”という点が、その最大の魅力かもしれませんね。

以上、フォルクローレを代表する楽器のひとつ、サンポーニャについてまとめてみました。
個人的に経験浅く不備な点も多いと思いますが、随時訂正加筆を重ね、確かなページに仕上げていきたいと思っています。 文責 nosa
〈2015.7.1 一部改訂〉